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最近、尖閣諸島で中国の漁船と日本の海上保安庁の巡視船が衝突した事件が、マスコミ等で賑わっています。この事件の推移を見ながら思い出したのが、表題の本です。陰隲録は明末の学者袁了凡が息子の袁天啓に書き与えたもので、これを安岡正篤先生がわかりやすく解説しています。陰しつ録を貫いているものは、人間は運命とか宿命というものを、自らの道徳的努力によって、立命に転換していくことができるという思想です。
私の好きな一節を紹介します。
自分はお前(天啓)の運命がいかなるものであるか解らない。しかし、もし運命的にお前が大変な出世をして、世間に有名になるようなことになったならば、その時はまだ昔の志を得ぬ時の、落魄(らくはく)しておった時の気持ちを持ちつづけて、決していい気になってはいけない。
もし順当に自分の思うままの運命に当たったならば、まだ昔の意のままにならなかった時の心を持たなければならない。
もし少しく豊かになり衣食に事欠かぬようになったならば、貧乏の時の気持ちを忘れてはならない。
また互いに愛敬し合うようになったならば、いい気になって甘えないように、常に反省してつつしむことを忘れてはならない。
もし家が代々世間の人望を集めるようになったならば、身分が卑しくて人から顧みられなかった時のことを忘れてはならない。
もし学問がやや優れるようになったならば、まだまだ浅学(せんがく)固陋(ころう)で何もわからぬ自分であるという気持ちを失ってはならない。
中国(明)の人の書いた言葉です。「惟だ謙のみ福を受く」人間は謙虚にして初めて幸福を受けることができる。中国が大国となったことは誰しも認めますが、こうした言葉は死語となってしまったのでしょうか?
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